東京高等裁判所 昭和34年(ネ)3102号 判決 1960年6月22日
控訴人(原告) 鈴木宣三
被控訴人(被告) 千葉県知事
原審 千葉地方昭和三三年(行)第一二号(例集十巻十一号207参照)
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は、原判決を取り消す、被控訴人は神戸市葺合区脇浜町三丁目二〇三五番地の一川崎製鉄株式会社が千葉県内に所有する大規模の償却資産につき同会社に対する昭和三十年度分より昭和三十三年度分までの固定資産税の請求権を放棄してはならない。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、原判決の事実摘示に記載されているとおりであるから、ここにその記載を引用する。
理由
本訴請求の要旨が千葉県知事たる被控訴人が訴外川崎製鉄株式会社に対し地方税法第七四〇条、第七四一条に基いて課すべき固定資産税を昭和三十年度から昭和三十三年度まで賦課徴収しないことが地方自治法第二四三条の二第一項所定の「財産の違法処分」にあたるから、同条第四項によつて当該処分の禁止に関する裁判を求めるというにあること及び地方自治法第二四三条の二第四項に定めるいわゆる納税者訴訟の制度が、地方公共団体の公金、営造物その他の財産の、その団体の役職員による違法な管理、処分行為を防止し又は匡正することを目的としていることにかんがみ、同条第一項に定める「財産」は管理又は処分行為の対象となるべき具体的財産を意味し、いまだ賦課処分によつて確定されていない固定資産税等のいわゆる抽象的租税債権のごときは、これに包含されないものと解すべく、また控訴人の請求は実質上被控訴人に対し租税の賦課処分という積極的な行政行為を求めることに帰着し、違法行為の制限、禁止等の裁判をなしうることを定めたに過ぎない本条によつてこのような請求をすることは許されないものと解すべきことはいずれも原判決の理由に記載されているとおりであるから、その理由の記載を引用する。
なお、控訴人は、被控訴人が川崎製鉄株式会社に対する固定資産税を賦課徴収しないことが租税債権の放棄にあたり、従つて「財産の違法な処分」に該当すると主張するが、税の賦課徴収をしないことは単なる不作為にすぎず、積極的な放棄の行為があつたものということはできないものと解すべきであるから本条にいわゆる「処分」にあたらないものというべきである。(もつとも、税の賦課徴収を怠り時効を完成させたような場合は問題であるが、このような場合も、地方自治法第七十五条に規定する一般的な事務監査の請求等をなしうることは格別、本条による監査及び訴訟の対象とはならないものと解する。)
以上のとおり、控訴人の本訴請求は地方自治法第二四三条の二に定める要件に該当しない不適法なものというべく、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九十五条及び第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)